カリフォルニア州では、労働法違反による訴訟が非常に多いです。それは、1つは、労働法に無頓着な会社や、あえて法律を無視したりする会社が、多いというのもありますが、弁護士も成功報酬で案件を引受けやすいという理由もあるからです。カリフォルニア州では、労働法違反の訴訟をした場合、勝訴した側は、相手の弁護士費用も負担しなくてはなりません。弁護士は、勝訴すれば、お金のない労働者から着手金を取ったりすることなく、相手の会社から取り立てることができるのです。大抵の場合、数十ドルの残業代の未払であっても、弁護士費用を入れると数万ドル単位の損害金支払いとなります。さらに罰金も加算されます。 特にカリフォルニア州には、PAGA法(Private Attorney General Act =通称「パガ法」)という、労働長官に代わり1人の従業員が、他の従業員を代理して、会社を相手取り、まるで集団訴訟のように労働法違反を提訴できる法律があります。そうすることで、1人に対する罰金が、合わせた従業員人数分に膨れ上がるわけです。最終的に、敗訴すれば、原告労働者に最終的に支払うべき金額は少なくとも数百万円、普通でも数千万円、敗訴すればそれ以上となるでしょう。これは、自社を代理する弁護士にかかる費用を含んでいません。
分かりやすいように最近よくある質問や勘違いをまとめて、以下、Q&A形式で、説明します:
質問1: うちの従業員は、マネージャー(管理職)だから、残業手当は発生しないのでは?
回答:役職名は、無意味です。実際に従事している仕事内容で、判断されます。管理職と見なされなければ、時給で計算して、残業代が発生します。現実的に、小規模の会社では、管理職とみなされるのは社長くらいでしょう。
質問2: うちの場合は、月給(例:$3000)で払っているので、時間給で、残業代は、計算できないのでは?
回答:年収(月収の場合はx12)を52週で割り、それをさらに週40時間で割って算出します。年収$6万ドルの場合、時間給は、$28.8 となり、1日8時間を超える残業代は、その1.5 倍で時給$43.27。12時間を超えると基本時給の2倍で、時給$57.6となります。7日連続で就労した場合は、7日目の時給(8時間まで)は、基本時給の1.5倍です。
質問3: うちの従業員は、月給制で、残業手当は出ないことに、雇用契約書で約束しているのだから、問題は、ないのでは?
回答:それは,その契約書自体が違法ですので、拘束力はありません。だからと言って、雇用契約書や雇用マニュアルが、重要でないという事ではありません。これらは、給与だけでなく、仕事の定義、休暇などを明記している非常に重要な書類です。雇用マニュアルも軽視される傾向にありますが、裁判では、契約書と見なされることが多いので、重要です。ビジネスがそれぞれ違うように、これらの書類もビジネスに合わせて作成、更新されるべきなのです。
質問4: うちの従業員は、責任感があるので、頼まなくても、自主的に仕事が終わるまで、残業をしてくれている。残業代もいらないとまで、言っていた。だから、問題は、ないのでは?
回答:雇用主には、従業員が働いた分だけ、支払う義務があります。その時は、要らないと言っても、後から請求されば、払わなくてはなりません。これで提訴されることもあります。
質問5: 残業時間など、タイムカードを押していないのに、どうやって従業員はそれを証明できるのか?
回答:従業員には、証明義務はなく、雇用主にあります。従業員は、例えば、毎日3時間残業をしていたと証言するだけで、十分なのです。雇用主は、それを覆す証明を裁判官に出さなくてはなりません。ビデオカメラで会社への出入りの証拠とか、他の従業員の証言、タイムカードなどですが、ほとんどの会社がそのような証拠は保存していません。
質問6: 残業代の未払いだけが、労働法の違法行為なのですか?
回答:カリフォルニア州の法律では、毎4時間以内に、10分の休憩、1日5時間以上働く従業員には30分のお昼休憩が義務付けられています。それを怠ると、その日ごと、1時間分の時給が罰金として課せられます。たったの1時間分ですが、積もり積もれば、ですし、さらに莫大な弁護士費用です。労働法で規定されている項目は、休憩時間だけではありません。残業代の未払となると、最低賃金未払の違法や、毎月の給与明細が間違ってくるので、それも違法となり、別途の罰金が加算され、最終的には、未払の残業代の数十倍となるでしょう。
上記ように、意図しない違法行為であっても提訴されてからでは、遅すぎます。未然に防ぐしか方法はありません。最初から、会社の雇用契約書や雇用マニュアルを現行の法律に基づいて、作成し、労働法の規定を理解しておく必要があります。たまに、ウェブで、ダウンロードして、独自で作成している会社も聞きますが、それもお勧めできません。それらは、法規制の変更などの理由で、毎年、更新しなくてはならないものですし、それぞれの会社のサイズやニーズで、カスタマイズされなくては、ならないものなのです。
カリフォルニア州の労働法自体、毎年新しい判例が出て、目まぐるしく変わっています。常に法改正や判例などに熟知している弁護士ではないと、正しくアドバイスすることは、難しいでしょう。アメリカでは、労働法に限らず、法律に関するアドバイスや法的効力のある書類を作成出来るのは、弁護士のみです。日本のように司法書士や行政書士のような資格はありません。弁護士資格のない人からのアドバイスを鵜呑みにすることなく、もし、まだ弁護士に相談していないとすれば、出来るだけ早めに、労働法に詳しい弁護士と相談し準備、対処することが重要です。
逆に従業員からすれば、法律違反をしている会社は、同じ境遇の従業員を救う意味でも、正す必要があります。こういった会社は、提訴されるまで都合の良い都市伝説や運を信じて、法律違反を繰り返すものです。
当事務所は、両方の立場を代理できますので、不当に感じている方や、今の運営方法が心配な会社は、直ぐにご相談ください。
(注)上記は一般的な法律の説明ですので、アドバイスではなく、読者全てに該当するわけではありません。法律も現時点で有効な法律であり、将来的な有効性を保証するものではありません。」